中国で『勝つ』裁判を考える 高橋 幸治氏(2)東京都日中経済ビジネス委員会(ビジネスクラブ)セミナー発表分より

中国で「勝つ」裁判を考える

今回の「中国で 勝つ裁判を考える」は、 経済ビジネス委員会会議(セミナー)にて 高橋幸治氏が発表されたものを要約した内容と

なっています。

 前回の「専門的視点から見る中国ビジネス法務入門」では、中国では、「社会の安定」を重視するがゆえに外国人や「敗訴しても困らないほど財力がある人」は裁判で勝ちにくいという話をしました。では、現実はどうなのでしょうか。まずは、中国で発生したある著作権に関する訴訟を見てみましょう。

【事案】原告A社は、ある演劇に関する映像の著作権を保有していた。しかし、ある時、その演劇の映像の使用許可を出していないにもかかわらず、A社の発売した演劇の映像のDVDを被告B社がそのままインターネット上の動画サイトにアップロードしていたことが発覚した。A社はB社に対し、何度も当該映像の削除を求めたがB社は削除を全くしようとはしなかった。そこで、A社はB社に著作権侵害を理由として、損害賠償として2万元の支払いと公開の場での謝罪を求めるべく人民法院(裁判所)に提訴した。

 この裁判の結果としては、人民法院は、A社の主張の一部を認め、B社はA社に対し損害賠償を支払うものとしました。しかし、その途中では日本ではあまり考えられない論理がありました。A社の主張に対して、B社は「A社は演劇を撮影しただけであり、当該演劇の著作権を保有しているとは言えない。著作権を保有していない以上、著作権侵害も起こり得ない」と反論したのです。その後、A社は当該演劇の演者と交わした契約書を提出し、そこに「演劇の映像の著作権についてはA社が管理するものとする」との条項と、各演者に出演料や版権料を支払っていたことを明らかにしました。これによって人民法院は確かにA社は当該演劇を収めたDVDの著作権を保有しているのであり、経済損失としてB社は損害賠償を支払わなければならないとしたのです。

 日本でも、「撮影しただけの写真や映像」などに独立した著作権が発生しているのかという点に問題があるとしています。しかし、そこに撮影者の思想があり、独立した著作物と認められれば著作権が発生していると考えられています。A社は当該演劇のDVDを販売していたのであり、常識的に考えれば当該演劇を単に撮影しただけではなく、編集したりテロップを入れたりしていたものと思われます。つまり、A社が著作権を管理するとの演者との契約が存在することを示すまでもなく、B社の反論は採用されないのが日本などでの考え方です。これと比べると、この判断はかなり奇異にも見えます。

 さらに、A社が得られたのが損害賠償のみで、公開の場でのB社の謝罪を命じられなかったのは、「謝罪を強制することは、人身権の侵害であり、これができるのは自らも人身権を侵害された場合である。A社は著作権を侵害されたのみであり、B社の人身権に強制を加えることはできない」と人民法院が判断したためです。A社が著作権を保有している映像を勝手にインターネットにアップロードしたのであれば、外部者にはA社が映像を無料公開したと思う可能性が高く、A社が映像を無料公開したわけではないということを世間に知らしめる意味でも、B社の公開の場での謝罪はあってもよかったのではないでしょうか。しかし、この事例ではこのような判断がなされました。(判決番号:(2009)沪一中民五(知)初字第182号)

 結局、人民法院はなるべくA社の主張を認めたくないという判断が裏にあったのではないでしょうか。他社の著作物を勝手にインターネット上にアップしたB社は、コンプライアンスに関してもあまりレベルは高くなく、小規模企業であることが予測されます。そのような、企業に多くのペナルティを課すのは、よくない、大企業が小規模企業に対して大きな勝訴をすると小規模企業側は、社会に対して不満を持ち、安定的な統治を害するというのが中国的司法の発想と言われています。中国司法には「先決後審」という言葉があります。これは、「先に決めて、後から審理する」という意味で、要するに審理するときには実は内部では結論は既に決まっていて、審理自体が単なる形式的なものであるということです。

 社会に不満を持つ者が多くなり、「共産党統治下でも世の中はよくない」と思う者が増えること、これをいかに防ぐかが中国の司法に求められているものと言われています。むろん、全てのケースがこのようになるわけではありませんが(今回のケースも公開の場での謝罪は認められませんでしたが、損害賠償は認められています)、貧しい人も含めて「和」を裁判が求めるという要素は、中国の裁判に多分にあります。

 しかし、これを逆手にとって勝訴する人や外国企業もある程度います。つまり、自分たちの方が悲惨な目にあっているということを裁判の際に演出して、勝訴を勝ち取っているのです。これもやはり全てのケースが、とは言えませんが、貧しい人も含めて「和」を裁判が求める以上、訴訟で「貧しい人」を装えば勝訴率は上がる傾向があります。日本では、考えられないかもしれませんが、中国での裁判は「情に訴えかける」のがある程度重要と言えます。

※本稿は、2021年1月30日に行われた「東京都日中経済ビジネス会議」(於:zoom)にて筆者が行った講演「中国での著作権裁判を例に、『中国で勝つ裁判』を考える」の講演原稿を加筆修正したものです。

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