皆さんこんにちは!今日は台湾留学経験者のYが、台湾のピンインについてお話をしたいと思います。
学校や独学で中国語を学び始めた方、なんとなく身の回りの漢字が中国語で発音できることに楽しみを感じるようになってきたと思います。
でもそんなとき、初めて台湾旅行にいくと衝撃をうけるのではないでしょうか。
あれ、ピンインがなんか違うぞ・・・( ^ω^;)台湾の中国語は発音が違うのかな???
新竹Hsinchu・・・!?
・・・というか北京はBeijingだし、台北はタイペイ(Taipei)じゃなくて、タイベイ(Taibei)では???
と最後は当たり前すぎて気付かなかった疑問に気が付くと思います。
何故か。それはなんと、台湾ではピンインの表記方式が「混在」しているからなのです。そしてその奥には、台湾と中国の間にある溝がありました。
時はさかのぼり1949年の国共内戦後。広大な人口を擁する大陸では、複雑な漢字や多種多様な発音がある中国語をどう普及させるかが課題でした。そこで大陸は簡体字や漢語ピンイン等を次々と制定しました。一方で、人口が比較的少ない台湾は、日本植民地期に識字率がすでに改善していたこともあり、難しい繁体字も1918年の辛亥革命の時から徐々に使われ始めた注音(bopomofo)も難なく受け入れられ、すぐに高い識字率となりました。
※台湾注音(Bopomofo)。ちなみにbopomofoと打つと、不怕麻煩と出てきます。面倒くさがらず、台湾では注音を学べという暗示でしょうか。
しかし1990年代。冷戦が終結し、世界が国際化にむけて動き出すと、台湾は漢字の統一的な英語表記がないことに、危機感を覚えはじめます。中国語を知らない外国人に発音を伝える手段がないのです。当時台湾のピンインは、地名はウェード式、郵便は郵政式、その他にも様々あり、混在していました。ちなみにTaipeiはウェード式の表記から来ています。
台北だけじゃなく、高雄(Kaohsiung)もウェード式表記です。
そこで当初与党国民党は台湾独自の表記である「国語注音符号第二式」を1996年に採用します。そこには大陸と同じピンインは使わないという対抗意識がありました。これにより台湾の看板はどんどんこの発音表記に切り替わります。
ウェード式で忠(Zhong)はChungでしたが、国語注音符号第二式でJungになりました
しかし有識者から、すでに国際社会で受け入れられている表記は漢語ピンインであり、台湾の国際化にはこれしかないと反対し、一転して1999年に中国と同じ「漢語ピンイン」を採用します。
ここで一件落着・・・かと思いきや、2000年に台湾独立派の民進党が初の政権与党を奪取したことをうけ、突如として漢語ピンインとほぼ同じながらも台湾独自の要素を混ぜ込んだ「通用ピンイン」を採用します。彼らとしてはピンインの問題は「国際化」のみならず「台湾アイデンティティ」を左右する問題だったのです。
通用ピンインはxがsになります。中国語初見の外国人にとっては、こっちのが発音しやすいと評判とか。
もうこの時点で頭がついていかない方も多いと思います。
実際色々省いて書いてますが、当時の台湾のピンイン事情はとても混迷を極めていたようです。この時、台湾の国土交通省は、もう国内の看板の8割は1996年に決定した「国語注音符号第二式」に切り替わったため、これ以上変わるのは勘弁してくれ・・・と言っていたようです。
でもまた変わります。
以前より国際化の重要性を説き続け、漢語ピンインを主張した馬英九が2008年に総統となると、すぐさま「漢語ピンイン」に戻します。一方で、これまで慣例的に使われていた台北高雄等の主要な地名は、従来の表記を維持しようとなり、一部地名を残し最終的に漢語ピンインで統一されることとなり、ようやくウェード式等→国語注音符号第二式→漢語ピンイン→通用ピンイン→漢語ピンイン、と長く続いた論争に決着がつくこととなりました。
しかし数々の変更をうけて、台湾の中国語のピンイン表記は未だ混乱したままです。
また台湾人自身が中国語入力の際にピンインではなく注音を使っていることも、ピンインの統一化の障害となっているかもしれません。台湾人に漢語ピンインはまず通じません。(注音についても今度のブログで話したいと思います)
いずれにしても、表記はどうあれ、台湾の中国語発音は大陸と基本的には変わらないので、旅行の際はとまどうことなく、日本で習った中国語を思いっきり使って下さい!
おわり
参考文献等:
菅野敦志. 台湾の「拼音論争」とアイデンティティ問題―国際化と主体性の狭間で―.『アジア太平洋討究』No. 20. 2013年2月
Taipei Main Station + Jiufen Old Street – Little Island Takara、日本と台湾の高速道路を比較する|Naoさん|note、Taiwan In Cycles: Apr 24, 2010、signs in Keelung/Jilong (pinyin.info)、通用拼音 – Wikipedia