中国に住んでいる日本人として、今最も有名な竹内亮監督にお話を伺いました。
竹内亮とは。中国語を33歳で本格的に学び、映像制作会社を経営
仕事について
中国に住んでオウンドメディア会社を経営しています。映像制作会社です。
日本の映像制作会社と違うのは、配信も含めて行うということ。企画、制作、配信、宣伝を1社で行うミニテレビ局のような形になっています。社員は36人~37人で半分は日本語が話せません。
中国の文化を日本に紹介したり、日本のことを中国に紹介している。社員の半分以上は配信の宣伝を担当しています。
中国に住んでいる日本人としては一番有名な日本人になっていると思います。
中国語について
私自身は33歳から本格的に中国語の勉強を始めて、今42歳ですが、中国語で講演ができるレベルにはなれました。
40歳で勉強を始めても遅くはないと思います。やる気の問題だと思います。
私の場合は、この地で仕事をしていかなくてはいけないという環境、プレッシャーがあったのもあったとは思います。
仕事をはじめたきっかけ
中国を扱うドキュメンタリーを始めたのは、日本のアニメを紹介したいと思ったのがきっかけです。
ただ、アニメを伝えても中国人には遠いので、アニメ業界で働く中国人のことを発信した方が日本が近くなるのではないかと思って、日本に住む中国人と取材したいと思いました。
私の妻が中国人で、南京人。妻は日本で知り合いました。妻は日本で暮らしている中国人でした。
2005年に知り合ったが、当時は中国の経済力が強くなく、日本の中国人は貧しく馬鹿にされていました。
そういう状況を見て、非常に腹が立ちました。だからこそ、日本に住んで頑張っている中国人を応援したいという気持ちが生まれました。
なぜドキュメンタリーをつくり続けるのか
ドキュメンタリーを作ることが好きなので、それがモチベーションになっています。
日本でもドキュメンタリーを作り続けて20年になっています。
日中友好といった使命感ではなく、楽しいからやっています。
楽しいことをやらないと続かないと思います。
なぜ中国人の人が心を開いてくれるのか
よく聞かれる質問ですが、なぜ中国人が心がひかれるのかというと、それは私が心を開いているからだと思います。
人と人とのコミュニケーションの基本だと思います。
相手のことを好きになる。だから相手も自分のことを好きなって心を開いてくれます。
単純に中国人と話すのが大好きです。
話していると楽しくて、それを見ている相手にも伝わっていく。
変な目的などはなく、好きだと伝えると伝わるのだと思います。
これは何の技術があるわけでもないかと思います。
今だから感じる南京で取り組んだメリット
北京や上海では新しいことが次々に生まれるので、新しいことをどんどんやらなくてはいけない。
しかし、南京は北京、上海、深センほど競争は激しくなく、外国人が取り組むと目立ちます。
南京の人たちが応援をしてくれます。
北京にも上海にも近い。
南京大虐殺という悲しい事件があって、日本人に対して冷たいのではないかと思うかもしれないですが、南京に住んで9年になるが、1回も嫌な想いをしたことはありません
息子も娘も学校に通っているが同級生にいじめられたといったこともありません。
ビジネスでいうと、ローソンが南京に出店しました
これまで南京は800万人という巨大市場だったにも関わらず日本のコンビニはありませんでした。
2年前に初めてローソンが出店したらすごい行列になって、3時間待ちでした。
今では南京はローソンだらけになっていて、南京の売り上げが中国で一番になっているといます。
コロナ後、1年半ぶりに日本にきて感じたコロナ対策の危機的状況
ずっと中国に住んでいて、コロナが発生してから1年半、日本に帰っていませんでした。
中国のコロナ対策に慣れていた中で、日本に来て、コロナ対策の差にがくぜんとしました。
2021年6月に日本に着いたのですが、中国同様に管理されるのかと思っっていたら、成田空港でPCR検査を受けた後はフリーでした。
アプリはダウンロードしましたが、強制力があるわけではありません。
日本は個人の自覚に頼っていることに驚いきました。
私自身は外出自粛などは守りましたが、守らなくても問題がないという形になっています。
今は、日本から中国に戻ってホテルでの隔離生活になっています。
ホテルでは一歩も出ることはできず、毎日体温検査をしています。
それだけでなく、食べ物を食べる時の箸があります。
これが、金属の箸で、使い捨ての箸は使いません。
これは、唾液がついているものを捨てて、そこから感染するのを予防するという意図でだと思います。
また、トイレの排泄物を消毒してから流すということまでしています。
こういう形で、徹底的に行っているので、中国ではコロナが広がっていないのだと思います。
日本のメディアは中国の強権的な隔離政策によってウイルスを強引に抑え込んでいると報道しています。
市民は嫌々従っているのではなく、感染したくないので従っているのであって、政府が怖いから、締め付けられるからということでウイルス対策をしているのではなく、自分の身を守るために協力しているのだと思います。
このあたり、日本のメディアの誘導が始まっているのではと、悲しく思っています。
東京オリンピックの60日にわたる取材を通して感じた日本の国際化問題
ドキュメンタリーが2200万再生
今回は東京オリンピックのドキュメンタリーを作るために60日間撮影しました。
日本では4回目の緊急事態宣言の中での訪日でしたが、私自身は緊急事態宣言は初めて体験でした。
緊急事態というのでかなりピリピリしているのかと思っていましたが、全く緊急ではないというのが感想。全く切迫感のないものだと感じました。
今回は、中国人が見る視点で撮影したものですが、Weiboだけで2200万回の再生数になっています。
作品時間は80分で、スタッフからは長すぎると言われましたが、いけると思ってこの長さになりました。
バズった理由は、愛ちゃん(福原愛)を独占取材したのが大きいかと思います。
愛ちゃんは中国人ならだれもが知っている卓球界のスター。
WeiboやwechatやBillbilliなどでも配信しましたが、すべて見る層が違います。
Weiboはアイドル好きが多いので、福原愛さんに着目したものといった形で配信の内容を変えています。
作品では語れない東京オリンピックの実態。日本を愛していると再認識
作品には出てない感想として、今回のオリンピックはぐちゃぐちゃだったということがあります。
日本人として失望しました。日本人は細かいところに気が届く、おもてなしがあることに誇りを持っていましたが、全くできていませんでした。
たとえば、開会ボランティアの制服が小さすぎて着ることができない外国人がいました。
制服が日本人サイズでしか作られていませんでした。
世界中の人が着るのに、なぜそうだったのか。
他にも、ムスリムが食べるのはハラール食品になります。また、欧米人にはベジタリアンがたくさんいます。
しかし、ボランティアに支給される食事は肉だらけでした。
ムスリムの人たちにとっては、食べるものがなくなってしまいます。
それを日本人の責任者に聞いたところ、わがままを言うのであれば、ボランティアをやらないでくれと言われたという人がいました。
国際交流のオリンピックでこういった判断は良いのか。
もちろん、日本人はそういう人たちばかりではないというのはわかっていますが、なぜオリンピックで働く人たちがこういう行動をとってしまったのか。
自身が体験したエピソードとして、聖火ランナーの説明会での出来事です。
中国から来た中国人の聖火ランナーとして、日本で説明会に参加しました。
説明は日本語で行われるということで、その人はわかりません。
そのため、通訳をしたいと言ったらだめだと言われました。理由は規則だから。
国際交流イベントなのに国際化していない部分を多く感じました。
他にも国際メディアセンターのネット回線の話もあります。
Wi-FiのIDが一つしかなく、それを世界中の記者が同時に使ったため、結果として自分でWi-Fiカードを買って、メディアセンターのWi-Fiは使わないということになりました
4回オリンピックを取材している中国人記者の話によると、オリンピックは毎回問題が起きていて、今回はコロナもあって、不確定要素が多いので、仕方ないという話だった。
そうやって憤ることができるのは、私が日本を愛しているからだと言われました。
改めて自身が日本のことを好きなんだなと知る機会にもなりました。
ただ、こういったことは、日本を知っている外国人も感じていることだったようです。
もっと日本はできるはずだという前提があったから、失望しているのだと思います。
国際感覚を持っている人から声をあげていかないといつまで経っても変わらないと思うので、みなさんにはぜひ声をあげていっていただければと思います。
日本企業が中国で失敗する理由
多くの日本企業が中国に進出していますが、失敗する例も多くあります。
その原因の多くが、日本のやり方を中国でそのままやろうとしていることだと思います。
企業が派遣するのが50代ぐらいの人を派遣しています。
駐在する人は若い人で柔軟性のある人を派遣すべきだと思います。
50代の世代の人の考えを変えるのは難しいと思います。
番組を作っている対象は、40代よりも下で考えています。
日本人でも中国人でも60代よりも上の人たちの考えを変えるのは難しいと思います。
そのため、若い人たちに向けて番組を作っています。
コロナ後のインバウンドは期待できない
日本ではコロナが終わったらインバウンドが復活するのではないかと考えている人も多いと思います。
しかし、中国国内でホテルの質、サービスの質がかなり上がっています。
中国人も国内旅行を楽しみ始めているのが実際です。
スキーも以前は日本に来たかもしれませんが、北京の冬季オリンピックでスキー場の整備もかなり進んでいます。
日本のインバウンドはそこに危機感をいただかないと、ほっておいても人が来るという状況にはなくなると思います。
最後に、竹内さんからは、日本の若者でこれだけ中国に関心のある人たちがいるのかということがわかり、とてもうれしかったという感想もいただきました。
竹内さん、どうもありがとうございました!