第33回東京国際映画祭で発表され、2021年11月から上映される『COME & GO カム・アンド・ゴー』のリム・カーワイ監督。
中華系マレーシア人で日本に留学、就職の後、中国で映画を学び、監督になられています。そんなリム・カーワイ監督にインタビューをさせていただきました。
11月19日(金)から、ヒューマントラストシネマ渋谷他で全国順次ロードショー
配給: リアリーライクフィルムズ + cinema drifters
©️cinema drifters
監督について
1993年日本に来て、1年日本語学校に通って、1998年に大阪大学を卒業し、その後は2004年まで日本の通信会社に勤めていました。2004年から2011年まで北京に行って、仕事をしたり、旅行をしたり、日本に来たりという生活をしていました。2012年に中国を引き上げて大阪に住むことにして、今に至っています。
もともと中国をベースにしようと思っていたのですが、大阪で映画を撮るチャンスがあって、それを撮影してから大阪が良いな、ぜひ住みたいと思いました。中国で仕事もあったので、すぐに大阪に移ることはできませんでしたが、恋するミナミという映画の撮影をきっかけに大阪に住むことにしました。
現在、定住しているのはマレーシアですが、日本でも永住権を取っています。豊中に家を構えているのですが、ほとんど住んでおらず、梅田の近所の中崎町で暮らすことが多いです。
留学先に日本を選んだ理由
1990年代に日本はアジアで一番の先進国でした。東南アジアからすると、経済力、技術力の面であこがれの国でした。マレーシアでは、90年代半ば日本に留学するのはブームで、政府もそれを積極的に呼びかけていました。ルックイースト政策ですね。実際、あまり深く考えずに来たという感じです。
カムアンドゴーの製作過程
資金集め
これまで自主製作映画をたくさん作ってきました。自主製作の映画はスポンサーを探してから撮影します。自分の映画企画に興味がある人にプレゼンをして支援を得るんですね。その資金を得るのに4年ぐらいかかりました。10数人のお金を出してくれそうな人にアプローチをしました。大阪と関係がある人が中心です。
実は、製作で予算オーバーしてしまいました。また、仕上げや宣伝でもお金がかかります。そのため、製作中もお金を集めました。
中国はある意味バブルで、お金が余っているので映画に投資したいという人がいます。バブルの時の日本も同じだったのではないでしょうか。映画の世界が華やかに映っているので、映画が成功してリターンがあったら良いし、リターンがなくても有名な役者と写真を撮れるのでうれしいといった感じです。その点、日本は映画業界は厳しいですね。
脚本作成
カムアンドゴーは4~5年前から映画を作ろうとしていました。梅田をベースに日本人とアジア各国の話を作ろうという考えがありました。でも、企画書を書いて、全体の長めのあらすじを書いてお金を集めようとしたが、なかなか集まらなかったんですね。2018年の12月のクリスマスの頃にようやくお金のめどがついて、このチャンスを逃すと撮れないと思ったので、急遽準備に入って2019年3月に撮影をスタートしました。
すぐにスタートすることになったので、脚本を書く時間がありませんでした。3月末から4月の年度が替わる時期に撮影したいと思っていたので、最初の構想をもとに詳細な脚本はなく撮影することになりました。脚本はないのですが、どこで撮影するか、どういう話を展開するかというのは頭の中にはありました。
キャスティング
メインキャラクターは最初は20人ぐらいいました。最終的には、14人になりました。キャスティングは最初はオーディションをしましたが、それでは十分ではなかったので、自身のネットワークで探しました。キャラクターのイメージがあったので、それを基にしてキャスティングをしました。たまたまその人になったというのではなく、このキャラクターに合うのはこの人ということで、オファーをした。オファーするときは、脚本も見せる、こういうキャラクターということをお伝えし、あらすじをお話しして、演じてもらえないかと打診をしました。
ただ、役者が決まったら、キャラクターを役者に合わせて修正していきました。だから、役者さんに合うのだと思います。
たとえば、カムアンドゴーの中では、AV監督の役柄がありますが、もともとは単なるAV監督の役でした。AV監督役はオーディションで決まったのですが、彼自身が沖縄人で三線も引けるので、AV監督も沖縄出身にしました。こういったキャラクターの作り方は多いです。
多国籍のやりにくさと日本と海外の映画撮影の違い
役者にはいろいろな国の人がいます。私自身は日本語、中国語、英語が話せるので、役者とのコミュニケーションは問題ない形です。ただ、スタッフの方は大変かもしれません。たとえば、役者と中国語で話している内容は、他のスタッフはわかりません。さらに、脚本もないので、どうなるのかもわかりません。
そのため、スタッフは映画ができあがって、はじめてわかる部分もあるんですね。脚本がなく、その場で内容が決まって、即興の部分があるので、カメラマンも大変です。
実は即興でやるということについて、海外の人はあまり気にしません。出演前に衣装や役作りについても一切聞かないんですね。すべて監督に任せてもらえます。一方、日本の役者は事務所から衣装、ヘアメイクなどをどうするか、スケジュールはどうなっているかと聞かれます。今回の場合は、「これが脚本ですか。」ということも言われました(笑
日本人が知らないことを映画で表現
たとえば、カムアンドゴーの中には、中国人観光客と台湾人とのやりとりがあります。日本人から見ると、同じ中国人かもしれませんが、考え方、バックグラウンドが違うので、使っている携帯電話のアプリが違ったりもします。実は、このエピソードはフィクションで、Facebookや電子マネーの話をしてくださいということを伝えて演じてもらったのですが、結果としてあのような形になりました。こういったエピソードは私自身が外国人として日本で生活していたからこそ気づけたことかと思います。
実は、韓国人の女性を日本人のAV女優にするといった映画内のエピソードも作り話です。大阪にはAV業界がないので実際にはありえないんですね。ただ、それと同じことは東京では起こり得ていることだと思います。映画はうそつきです。ただ、その中でも伝わることはあるのではないかと思っています。