日本は台風や地震など天災が多く起こる中で、弥生時代から稲作などを集落の人々同士で助け合い、協力して生活を営んできた中で養われた“暗黙知”が日本企業には存在する。一つの事象から全体の物事を推測し行動に移せる感性だ。日本人同士なら一つのテーマでグループワークなど行うと、初対面の人同士でもその場の空気を読んで、それなりに議論を行い結果を出すことも可能な能力である。“空気”とは、以前私が書いたコラムNo.26でも触れたが、その場で自分自身の取るべき行動がそこにいるだけで感じ取れる感覚である。物事に対する遠慮がちな表現方法など改善すべき部分もあるが、暗黙知が生まれた背景には、歴史的に単一民族、単一言語、同じような生活環境があり、これは日本人の素晴らしい才能であると私は思う。近年、グローバル化が推し進められる中で、組織における暗黙知はなかなか日本以外の国では理解されないし、日本的組織に身を置かない限り理解できる筈が無いと思う。
海外進出戦略を考えたとき、日本側企業の目線にどれだけ立てるかが重要である。海外にいるから素晴らしいとか、現地語が使えるから優れているとかは重要ではなく、最も重要なのは顧客目線に本当に立てるかどうかに尽きる。「なぜ、日本企業は中国企業と違い意思決定のスピードが遅いのか?」などの疑問は最たる例である。このような当たり前の疑問をぶつけて来た日には、その進出コンサルはやめたほうが良いと私は思う。逆に日本的組織論を全く理解できていないからだ。
20年程前の上海ではCannon、SONY、Panasonic、SANYO、SHARPなど日本企業の看板が外灘を彩っていた。今はHUAWEI、Hisense、LG、SAMSUNGなど中国、韓国系資本に取って代わった。それは日本的組織が故に、プロダクトアウトの商品開発をしてきた末路であると思う。例えば洗濯機に優しく洗う機能を持たせた“やわらぎ”など必要以上の付加価値をつけて販売してきたが、中国、韓国系資本は必要なものをだけを搭載させ、日本企業に比べはるかに安い価格帯で市場に製品を投入している。ここで明暗が分かれた。日本メーカーは研究開発を最適化出来なかった事は反省すべき事柄であろう。R&Dセンターの存在意義は、常にイノベーションを市場に起こすことだ。その存在価値を自ら否定することは日本的組織にとって極めて難しい部分であるが、現在既に出来上がったグローバル市場という戦場を生き抜くには製品の最適化を図ることは避けては通れない。
日本的組織の良い面、改善すべき点のバランスを図る戦術こそが今求められている。
コロナで海外へ渡れない今だからこそ、一度立ち止まり“己を知り、日本を知る”という学びに時間を使ってみてはいかがだろうか。
著:永野